マーケティング最前線!

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ハーバード特別講義:「ルイ?ヴィトン」「Off-White」のカリスマデザイナー「ヴァージル?アブロー」の「3%アプローチ」とは?

2023.04.28

世界のストリートウェアの市場規模は18兆円超え!

世界のストリートウェアの2022年の市場規模は、18兆円を超え、今後、年平均3.5%で成長し、2028年には23兆円を超えると予想されています。また、ストリートファッションの主要カテゴリー「スニーカー」の世界市場は、2021年に10兆円となり、2022年から2030年にかけて年平均5.2%で成長するという予測もあります。

「ストリートウェア」とは、1990年代以降現在まで世界的に流行しているカジュアルな服装です。米ニューヨークのヒップホップカルチャーやカリフォルニアのサーフィン、スケートボード文化など、いわゆる「ストリート」から発展してきたジャンルです。

ファッション業界が生み出すトレンドやスタイルにとらわれず、「ストリート」(都会の街の中)に集まる若者たちから自然発生的に生まれる「自由で快適なファッション」だといえます。ジーンズ、Tシャツ、パーカー(hoodie)、キャップ(野球帽)、スニーカーなど、カジュアルで快適なファッションアイテムとして、特に若者たちの間で人気を博しています。

こうしたストリートファションの人気の理由はどこにあるのでしょうか?第1の理由が、そのスタイルです。「何にも縛られることのない自由さ?自然さ」を象徴する様式であり、若者の心をつかんでいます。ストリートファッションでは、ゆったりとした大きめのシルエットが特徴的で、服装の機能としての自然さや快適性(コンフォート)にもつながっています。

ポップカルチャーと結びつけられた「クール」なファッション

第2が、ポップカルチャーと連動した「クール」(カッコイイ)なイメージです。その時々のポップカルチャー(大衆文化)やトレンドを取り入れて、音楽やスポーツ、それに関係するセレブたちと密接な関係を構築することで、若者を含む広い世代に「クール」(cool)なファッションとして受け入れられていることです。

第3の理由が、ソーシャルメディア(SNS)の影響です。ストリート系ファッションは、ヒップホップなどの音楽シーン(ライブコンサート、クラブ)で着用され、その際立ったロゴなど人目を引く大胆なデザインが、「Instagram」などの画像系ソーシャルメディアを通じて広まり、露出度?接触度を高めていることです。

そうした人気のなかで、特定のストリートブランドを追いかけ、限定品を手に入れようと熱が入る愛好家たちもあとを断ちません。マイケル?ジョーダンなどの人気バスケットボールプレイヤーやヒップホップ?アーティストとのコラボによる特別のデザインのアイテムは品数が限られ、さらに希少価値が高まっています。

限定版のストリートブランド商品に対する若者たちの嗜好には、経済学でいう2つの効果が読み取れます。それが、「ヴェブレン効果」と「スノッブ効果」です。

 「見せびらかしの消費」と「スノッブ効果」


米国経済学者ソースティン?ヴェブレンに由来する「ヴェブレン効果」(Veblen effect)は、(価格が高くなれば需要は低下するという一般法則に反して)高価格であることそのものが魅力となり需要が高まる効果です。「見せびらかしの消費」(conspicuous consumption)とも呼ばれます。

もうひとつの「スノッブ効果」(snob effect)は、「他人と同じものはイヤだ」というように、希少性?限定性に価値を見出す心理効果です。「snob」には「お高くとまった人」という意味があります。

ちなみに、「スノッブ効果」と対立する効果が、「時流にのる」「多数派につく」ことを意味する「バンドワゴン効果」(bandwagon effect)です。「友達や周りの人、みんなが持っているから、欲しくなる」、あの心理効果です。

ストリートブランドとしては、「Supreme」(シュプリーム)、「STUSSY」(ステューシー)「Off-White」(オフホワイト)などがあげられます。日本のストリートブランドでも、「NEIGHBORHOOD」(ネイバーフッド)や「A BATHING APE」(略してBAPE/ア ベイシングエイプ)が高い人気を誇っています。

「ルイ?ヴィトン」「Off-White」の天才デザイナー、ヴァージル?アブロー!

さて、このストリートファッション界で「天才」と謳われたデザイナーといえば、「Off-White」の創業者でもあるヴァージル?アブロー(Virgil Abloh)です。

ヴァージル?アブローは「オフホワイト」(Off-White)の創設者というだけでなく、「ルイ?ヴィトン」(LOUIS VUITTON)のメンズウェア部門のアーティスティック?ディレクターなど数々の輝かしい歴史を残しています。

米国イリノイ州ロックフォード出身のアブローは、ウィスコンシン大学マディソン校を経てイリノイ工科大学大学院に進学し、建築学を学びながらファッションに興味をもちました。その後、人気ラッパーのカニエ?ウエスト(Kanye West)のクリエイティブディレクターに就任し、そこから数々の作品を世に送り出しました。

NIKEとのコラボシューズ「THE TEN」(ザ?テン)

アブローに世界的に注目が集まったのは、2017年秋にスタートした、ナイキ(NIKE)とのコラボ「シューズ」プロジェクトです。「THE TEN」(ザ?テン)と名付けられた10足のシューズは、商品が発売されるやいなや爆発的な大ヒットを記録したのです。

そのアブローが、2017年10月26日、米国ハーバード大学デザイン大学院(GSD)で行った伝説的な「特別講義」があります。講義のタイトルは「“Insert Complicated Title Here”」(「複雑なタイトルをここに入れろ」)です。アブローは、自分の講義のタイトルを、聴衆自らが決めなさい、と投げかけているのです。講義の開催場所は、同大学院の本館「Gund Hall」(ガンドホール)の「Piper Auditorium」(パイパー講堂)です。

残念ながら、アブローは、その伝説的講義の4年後の2021年11月28日、がんとの闘病ののち、41歳という若さでこの世を去りました。

そのアブローの特別講義の動画が、幸運にもハーバード大学デザイン大学院(GSD)のサイトで一般に公開されています。

公式サイト:https://www.gsd.harvard.edu/event/virgil-abloh/

さらに、その講義の記録(日本語版)が、ヴァージル?アブロー(2019)『“複雑なタイトルをここに” 』(アダチプレス)として出版されています。

 アブローの「Cheat Code」(裏技)@ ハーバード特別講義

詳しいことは、その動画と著書に譲りますが、その特別講義で、天才デザイナー、ヴァージル?アブローが「Cheat Code」(チートコード:裏技)を紹介しています。もともと「cheat」には「だます」「あざむく」という意味があります。「code」は「暗号」「記号」「規則」のことです。

アブローが言う「チートコード」には「自分が学生時代に受けておきたかったようなアドバイス」と「ショートカット」(人生の近道)という意味が込められています。

建築家、エンジニアとして学んだアブローは、学生時代のツールやテクニックをファッション、プロダクトデザイン、音楽の世界へと昇華させました。また、彼のストリート系ブランド「Off-White」は、ストリートウェアと高級ブランドを融合させ、ナイキ(NIKE)、イケア(IKEA)、赤十字などともコラボしています。「ストリート」と「高級ブランド」の融合は「一見矛盾した方針」に見えます。しかし、彼は「ハードルなど存在しない」と明快に答えます。

その特別講義のなかで、聴衆に対してアブローが提示した考え方のいくつかを紹介しておきましょう。

「皆さんは、何か新しいものを発明しよう、前衛的であろうとチャレンジしていることだろう。基本的に、それは不可能だ。これらは、自分が仕事をしていくなかでわかってきたことなんだ。デザイナーやアーティストとして、私たちは目の前の多くの繰り返しの結果として存在し、同じ方向に向かって集団でトレッキングしている(歩いている)のだ」

彼の言葉に解釈をくわえるなら、100%完全に新しいものを作り出すことは不可能であり、過去から現在の積み重ねとして「すでにあるもの」(readymade)を活用することが大切だということです。

「3%だけ編集」して自分らしさをアピール!

さらに、アブローは、編集に対する「3パーセントのアプローチ」(3% Approach)を提唱します。彼が、ナイキのスニーカー「エアフォース1」(AIR FORCE 1)のアブローバージョンのデザインを依頼されたとき、「他の靴はいらないから、自分を抑制して3パーセントだけ編集することに興味を持った。すでに持っている靴を認識させるようなものを見たい」と思ったと語っています。

ここで、彼が言いたいのは、すでに存在する「あるモノの100%」のうちの「3%」を編集するだけで、自分らしさをアピールできるということです。アブローのような天才デザイナーでさえ「3%だけ」を編集するという謙抑的な姿勢でいることを知ると、私たちも勇気をもらえます。既存のモノに「3%の変化を加える」だけで、自分らしい何かが生まれるのです。

アブローは「完璧主義者」でなくてもいいんだと気づいたら、不安やプレッシャーから解放され、多くのことを同時にやっても、急に夜眠れるようになったそうです。「完璧主義者になろうとしているのなら、もう何も考えていないことになる。自分の手と脳を信頼して、完成したことを伝えることが大切なんだ。そして、後付けで合理化すればいいのだ」彼はそう述べています。

 「完璧主義」から解放されたら、前に進めた!

彼は、「完璧主義」から解放されることで、そこから前進できることを悟ったのです。言い換えれば、失敗を受け入れることで、前進でき、それがイノベーション(革新)につながるということです。あれこれいう前に、とりあえず一歩踏み出し、何かを完成させる。理由は後付けでもいい。それがアブローのアドバイスです。

彼は、こうも言います。「もうひとつの靴が必要なのか?別のものが必要なのだろうか?どんなアウトプットにも、存在する理由が必要だ。(存在する理由を考えていないから、)ゴミ箱やリサイクルボックスがある。過剰な消費は、明らかにNGだ。デザイナーである私たちは、このような世代を超えた決断に挑戦しなければならない。しかし、その前に、それは存在する必要があるのだろうか?ノーと言ってもいいんだ」

アブローは、デザイナーであるからこそ、過剰な消費につながる「存在意義のないもの」を生み出すことに「No」と言える勇気を持つことの重要性を強調します。

以上のアブローの助言をまとめておきましょう。

1. 過去から現在までの蓄積、すでに存在するものをうまく活用すること。
2. 既存のモノに「3%」の変更をくわえるだけで、自分らしいものを作り出せる。
3.「完璧主義」は捨てて、失敗を受け入れ、とにかく一歩を踏み出し、何かを作り出す。
4. 存在意義のないモノ?コトに「No」と言える勇気を持つ。

天才デザイナー、ヴァージル?アブローのこうした「Cheat Code」(人生や仕事の裏技)を知ることで、視界が良好になるとともに、勇気をもらえるビジネスパーソンも少なくないことでしょう。


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