「そらとぶピカチュウプロジェクト」とは!
2023年6月4日、ANA(全日本空輸)が、ポケモン社が展開する「そらとぶピカチュウプロジェクト」に参画し、国際線特別塗装機「ピカチュウジェットNH」の運行を開始しました。特別塗装機には、リザードンやラティアス、ラティオス、ビビヨンなどのポケモンたちと一緒に、そらとぶピカチュウが描かれています。オリジナルグッズ第1弾として、バスポンチョも発売されました。
ちなみに、ポケモン (Pokémon)とは、(後述する)株式会社ポケモンが展開しているゲームソフト、アニメ、グッズなどに登場するキャラクター(モンスター)の総称です。
「そらとぶピカチュウプロジェクト」とは、ゲーム企画会社のポケモン(東京都港区六本木)が展開する「企業の社会的責任」(CSR: Corporate Social Responsibility)に関係する活動のひとつです。
「ピカチュウ」 (Pikachu)とは、『ポケットモンスター』シリーズに登場するキャラクター(モンスター)。世界的に高い認知度を誇り、ポケモンという作品を代表するアイコン的存在です。「ねずみポケモン」に分類されますが、ネズミよりもむしろ、「黄色い」リスのようなイメージに近いかもしれません。
同プロジェクトには、新型コロナ禍でダメージを受けた観光業を盛り上げ、人と人、人と地域を結び、旅の楽しさと「ワクワク」を再び届けたいという「社会貢献のための強い思い」が込められています。ポケモン社による社会貢献活動ですので、このプロジェクトには、特別塗装機の制作にかかる版権使用料を5年間無償とするなどコスト面での支援も含まれています。
ポケモン社と、スカイマークやANAがコラボ
もともと「そらとぶピカチュウプロジェクト」は、2021年に航空会社スカイマークとのコラボから始まりました。現在、スカイマーク、スクート(インドネシア)、チャイナエアライン(台湾)、ティーウェイ航空(韓国)、ANAが、「ピカチュウジェット」を運行しています。
ここで同プロジェクトの中心であるポケモン社の企業概要を確認しておきましょう。株式会社ポケモン(代表取締役社長 石原恒和氏)は、1998年、その名が示すように、ポケモンというコンテンツに特化し永続的なブランドに育てるために、原著作権者によって設立されました。企業理念は「ポケモンという存在を通して、現実世界と仮想世界の両方を豊かにすること」。
具体的には、ポケットモンスターのプロデュース?ライセンス管理および関連キャラクターグッズの販売、ゲームソフトの開発や関連商品の専門店であるポケモンセンターの運営などの事業を実施しています。主要株主は、任天堂株式会社(32%)、 株式会社ゲームフリーク、株式会社クリーチャーズです。
ポケモン社、2023年2月期業績好調!
ポケモン社が発表(『官報』(2023年5月29日))した2023年2月期(第25期)の決算は次のとおりです。売上高2,345.3億円(前期比14.8%増)、最終利益488.6億 (同18.1%増)と、2ケタの増収増益となり、過去最高の業績を記録しました。業種は異なりますが、売上高が同規模の企業として、ロート製薬、KADOKAWA、セリア(Seria)があります。
本業の利益率を意味する売上高営業利益率は、28.4%。こうした好業績には、「ポケットモンスター スカーレット?バイオレット」(販売本数は2,210万本)、「Pokémon GO」、「ポケモンカードゲーム」やその他のライセンス収益が寄与しています。
今回の「ポケモンジェット」のように、通常とは異なるデザインの塗装が施された機体は、一般に「特別塗装機」と呼ばれています。こうした特別塗装機は、機体全体をペイントしたり、デカール(航空機用ステッカー)を貼ったりしています。スペシャルマーキング機(スペマ機)とも呼ばれます。
航空機の塗装デザインで「白」が多い理由は?
一般的に、航空機の塗装デザインは「白」(ホワイト)を基調にしたものが多いとされます。その理由として次のようなものが指摘されています。第1に、白色は、航空輸送サービスに求められる安心感や清潔感を与えること。第2に、白色の塗料は比較的安価であること。
第3に、他の色で塗装する場合、白を下地にしてその上に他の色を塗り直すためコストがかかり、同時に塗料の量が増え機体重量が増加すること(燃費悪化要因)。ちなみに、塗装費用に関して、飛行機1機につき白色で約300万円、色付きが600万円以上という一般情報をインターネット上で見つけました。
第4に、整備で機体を下側から点検したとき、オイル漏れや塗装の腐食などを発見しやすいこと。第5に、白は熱を吸収しにくいため、客室の温度上昇が抑えられこと。
歴史的にみると、日本における特別塗装機の先駆が、ANAの「マリンジャンボ」だそうです。空飛ぶクジラがボーイング747型機(ジャンボ機)に描かれ、1993年から95年まで運航されました。特別塗装機の最近の例として、ANAの「鬼滅の刃じぇっと」「スターウォーズ」「フライングホヌ」などが知られています。JALには、ディズニーキャラクターとコラボした「JALドリームエクスプレス」 (JAL Dream Express) があります。
スカイマークでいえば、バスケットボール男子プロの「Bリーグ」とコラボした「B.LEAGUE JET」(Bリーグジェット)があり、人気漫画「スラムダンク」の作者、井上雄彦氏のイラストが描かれました。
航空機?空港広告の特徴
ここで、航空機?空港広告の特徴を整理しておきましょう。空港の特徴として、鉄道の駅などに比べて、ロビーやコンコース、ショップ、飲食店など様々な施設で構成されている「広い空間」が存在していることがあげられます。こうした広い空間を利用して、他の交通広告に比べてダイナミックに展開できる点が、空港広告のメリットです。空港では、利用者が移動する範囲も広いため、様々なポイントで広告に接触する機会をつくり出せます。
さらに、飛行機内では決まった席で長時間過ごすことになります。そのため、機内広告は電車などで目にする交通広告と比べて(長時間にわたり)接触されやすく、印象も強くなります。特に、座席の前方には液晶画面があり、機内では動画広告も有効に活用できます。
「特別塗装機」を活用した広告のメリット
空港関連広告の中で特徴的な手段が、特別塗装機、つまり飛行機の機体自体をラッピングして広告媒体とするものです。滑走路に並ぶ飛行機の中でもラッピングされた機体はひときわ目立ちます。搭乗口から注目を集めることができ、さらに自社の広告を空に飛ばすことができるというダイナミックな魅力を持ち合わせています。もちろん、機体への特徴的なラッピングは話題性も高いため、メディアなどで取り上げられる可能性も高まり、より大きなPR 効果が期待できます。
特別塗装機のメリットをもう少し掘り下げておきましょう。第1に、機体に塗装された人気キャラクターや音楽アーティスト(たとえば韓国チェジュ航空と人気K-POPグループ「BTS」とのコラボ)に関して、子供?家族やファンを中心に「この飛行機に乗って旅行へ出かけたい!」という声が生まれ、旅行へ出かけるひとつのきっかけとなります。特別塗装機の機内のデザインやグッズも同じキャラクターで統一されるため、InstagramなどのSNS映えも期待でき、デジタルに強い若い世代の搭乗への誘因にもなります。
第2に、それがきっかけで家族?グループ旅行に行くとこになれば人数も多くなることで、航空会社の旅客収入にもプラスの効果となります。第3に、特別塗装機が旅行を誘発すれば、宿泊、飲食、お土産などの観光産業全体にも波及効果が生まれます。
航空業界、業績回復中!
ANAホールディングスの2022年度の決算は、コロナ禍の影響が落ち着き、旅行需要が回復しつつあることから最終的な損益が894億円の黒字となりました。最終損益が黒字となるのは2019年度以来、3年ぶり。日本航空(JAL)の2022年度の最終損益も344億円の黒字(前期22年3月期は1,775.5億円の赤字)になりました。2020年3月期以来、3期ぶりの黒字です。さらに、スカイマークの2022年度決算も純損益が57億円の黒字(前期22年3月期は67億2900万円の赤字)となりました。これは4年ぶりに最終黒字です。
このように、日本の航空業界の業績も回復の途上にあります。そうしたなか、ポケモン社と、スカイマーク、A N Aがコラボする「そらとぶピカチュウプロジェクト」による旅行需要の喚起にも大きな期待が寄せられています。まさに、ポケモンの主人公サトシの決め台詞のとおり、(航空業界を救うための宣伝役は)「ピカチュウ!キミに決めた!」ですね。