マーケティング最前線!

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『闇落ちとまと』で有名な曽我農園(新潟市)の次の一手は『チンパラガス』!

2024.03.12

「チンアナゴ」に似ているから『チンパラガス』

『闇落ちとまと』で有名な曽我農園(新潟市北区)。同社代表取締役社長の曽我新一氏が、「規格外のアスパラガスの名称」を商標登録したことを「X」で報告(2023年11月11日)。その名は『チンパラガス』。曲がったアスパラガスが、魚の「チンアナゴ」に似ていたことからそう名付けられました。

アスパラガスは、代表的な緑黄色野菜の一つ。この野菜から発見されたのが新陳代謝を促進するアスパラギン酸。独特の風味があり、天ぷら、サラダ、炒め物など、和洋中いずれの料理でも美味しく食べられる野菜です。 

「チンアナゴ」とは、流れの強いサンゴ礁の海底にすむウナギ目アナゴ科の魚。海の砂地に、巣穴を作って生息し、砂から顔を出して、海藻のようにゆらゆら揺れる姿がかわいい魚です。ダイバーの方々にも人気だそうです。珍しいから「チン」(珍)なのではなく、顔が日本犬の「チン」に似ていることからこの名前が付きました。

現在、曽我農園が生産するこの「チンパラガス」は、『闇落ちとまと』に続いて、大人気の商品となっています。

曽我農園チンパラガス

(曽我農園ホームページより)

ダース?ベイダーにインスパイアされた『闇落ちとまと』

最初に、前提として、曽我農園の人気商品『闇落ちとまと』の誕生経緯を確認しておきましょう。トマトを甘くするために「水やり」をひかえると、カルシウムを吸えなくなり、トマトの一部に黒いアザのような「尻腐れ」(しりくされ)という生理障害が発生します。その「尻腐れトマト」は、見た目は悪いのですが、黒い部分を削れば、非常に甘くて美味しいトマトとして食べられます。規格外農産物として廃棄してしまうにはもったいないトマトです。

このとき、曽我農園社長の曽我新一氏はひらめきました。世界的人気映画『スター?ウォーズ』で並外れた資質を持ちながら暗黒面に落ちてダース?ベイダーに変貌したアナキン?スカイウォーカーのエピソードにならって、黒い部分がある「尻腐れトマト」を『闇落ちとまと』と名付けて販売したのです。甘くて美味しい『闇落ちとまと』は、そのインパクトのあるネーミングと背後にある「物語」によって、ソーシャルメディアで話題となり一挙に人気商品となったのです。 

その人気と成功の証として、『闇落ちとまと』という名称は、「日本ネーミング大賞2022ルーキー部門」の最優秀賞も受賞しました。

曽我農園闇堕ちトマト

(曽我農園ホームページより)

 ネガティブな言葉なのにエコロジーにフィットしたネーミング

受賞理由として、「ネガティブな言葉なのにエコロジー意識に見事にフィットし強い力を持っている」「闇落ち=卑屈さに対し甘くて美味しいという裏返しが絶妙」「プロだと絶対に出せない凄いネーミング」などと高く評価され、「フードロス」といった時代のテーマにも貢献できる商品企画やストーリー性も支持されました。

ちなみに、販売時の規格に合わない形やサイズ、色合いの野菜は、「規格外野菜」と呼ばれ、処分される割合は、農林水産省の作況調査によると収穫量の約20%(推計)。2020年のデータでは、秋冬野菜の収穫量290万トンのうち、58万トンは規格外野菜として廃棄されているそうです。

農産物に規格があるのは、商品としての質を均一にするため、さらに、出荷時に梱包しやすくするためといった理由があります。一方で、規格が細かく厳格であれば、基準に満たない野菜は「規格外」となり、規格外野菜として処分される量が増えてしまいます。

『闇落ちとまと』は、ネーミングとストーリー作りによる「リブランディング」(ブランド再生/再構築)の成功事例であり、リブランディングに関する「曽我農園モデル」といってよいでしょう。 

そして、『闇落ちとまと』で成功した曽我農園が打ち出した次の一手が、冒頭で紹介した『チンパラガス』なのです。NST新潟総合テレビの取材記事(2023年04月28日)などをもとに、『チンパラガス』の誕生経緯と、曽我社長の意図を追跡してみましょう。

2023年4月28日、曽我農園の直売所で『チンパラガス』を販売したところ、朝から顧客でにぎわい、開店わずか1時間足らずで『チンパラガス』は完売となりました。

「ユーモアがある。太くて料理もしやすくてよかった」「アスパラはおいしい。やわらかいし、上から下まで全部いただける」と、そのみずみずしい食感と甘みが人気で、多くのリピーターを獲得しているそうです。

 高齢化により空いた農地で始めたアスパラガス栽培

曽我社長によれば、周辺農家の高齢化が進み農業をやめる方が多く、空いた農地をビニールハウスとして活用してほしいという切実な要望が届きました。そこで、曽我社長は、本業のトマト栽培の傍ら、アスパラガスの生産を始めたのです。

しかし、曽我農園で、アスパラガスを生産するといっても、単純には事が運びませんでした。曽我社長はそのときの状況を次のように説明します。「どうしても曲がったものが多くなってしまって、規格外品ということで安くなってしまう。ただ、アスパラガスの場合は鮮度が命で、形が悪くても味は変わらない」 

もちろん、細かく湿度を管理すれば、アスパラガスをまっすぐに育てることができます。しかし、曽我農園では、本業のトマト栽培も忙しく、アスパラガス栽培に費やす作業時間には限界がありました。

「チンパラガス」と名付けて、規格外商品を高付加価値化

このとき、曽我社長にまたアイデアが浮かびました。栽培したアスパラガスの形は悪くても、味は正規品と変わらない。その「曲がって育ったアスパラガス」がどことなく、可愛い海の人気者「チンアナゴ」に似ている。そこで、『チンパラガス』と名付け「付加価値化」して、(低価格の規格外商品としてではなく)正規品と同じ価格で販売したのです。

この『チンパラガス』は、いまや一般のアスパラガスをしのぐ人気となっています。「『チンパラ』ないの?」と訪れる顧客もたくさんいるそうです。ネットやソーシャルメディアでも、「B品となってしまうものを上手く売るの好き」「食品ロス問題をチンパラが救う」と好評価が寄せられています。

さらに、発想力が豊かな曽我社長は、正規品と比べて、大きく育ちすぎた巨大なアスパラガスの商品化にも成功しています。その商品の名前は『エクスカリバー』(Excalibur)。中世の騎士道物語の一つ「アーサー王伝説」で、アーサー王が所持したといわれる魔法の剣の名前に由来。

この『エクスカリバー』も、正規品と同じく、やわらかく甘い仕上がりの野菜として人気となっています。それ以外にも、トマト(tomato)の発音を英語ネイティブの発音に近づけた『タメィロゥ』など、ユニークな商標を多数登録しているそうです。なかなかの戦略家です。

曽我社長の柔軟な発想力の源泉はどこにあるのでしょうか。それが、ブログや本の執筆、地元紙での10年にわたる農業コラムの連載などの執筆キャリアです。執筆のための「ネタ」をメモする癖があり、「配達や運転の時にふっと思いついたもの」をメモに残しているそうです。さらに、もともと漫画や映画が好きな自称「オタク」であり、そうした趣味/好奇心もネーミングなどのアイデアの基礎になっているとのこと。

ビジネスにおける「ダジャレ」や「言葉遊び」の効果は?

『闇落ちとまと』や『チンパラガス』の事例でも分かるとおり、ビジネスにおける「ダジャレ」や「言葉遊び」を、商品名や店名、広告スローガンに使用することには、いくつかのプラスの効果があります。

第1が、顧客の記憶に定着しやすいこと。第2が、競合他社/商品に対して差別化できること。第3が、ユーモアや巧みな言葉遊びで顧客の関心?好奇心を喚起しやすいこと。第4が、ソーシャルメディアなどを介して「クチコミ」が生まれること。

 第5が、創造性と革新のイメージを顧客に伝えることができること。第6が、ネーミングなどがソーシャルメディアでバズって話題になれば、マーケティング費用を節約できること。第7に、ダジャレや遊び心のある言葉は、顧客との「コミュニケーション」を促進すること。

 もちろん、こうしたプラスの効果を狙う場合、文化的な感受性に配慮し、選択した言葉がターゲットとする顧客層にポジティブに響くように配慮することが重要となります。

『闇落ちとまと』『チンパラガス』の次にくる商品は何なのか?多くの農業関係者やビジネスパーソンが、曽我農園型モデルに熱い視線を送っていることでしょう。

曽我農園トマトの写真

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