第73回 “Singapore is a corporation with innovation as its national policy. ”? (シンガポールはイノベーションを国是とするいわば株式会社)
2024.08.19シンガポール株式会社
我々は、マリーナベイサンズホテルの地下に蓄電池を設置し、実証試験を行うプロジェクトに参画することで、シンガポールエネルギー業界の雄、シンガポールパワーの一角に食い込むチケットを手にすることができました(直接的には、子会社(シンガポールディストリクトクーリング社)ですが)。しかし、できれば、シンガポールパワーとも直接関係を構築したいと思っていました。これには、部下のゴパル(インド人)が取り組んでいました。私が出向する半年も前からアプローチしていたのです。
このプロジェクトは、電力オペレーションの効率化をめざしたソリューションでした。私の会社はエネルギー分野では、蓄電池の米子会社に加え、もう一社、スタートアップ企業、STI社にもマイナーな資本を投資していました。電力運営のソフトウエアソリューションを持つ会社で、ゴパルは、シンガポール政府のEDP(経済開発庁)が公表したエネルギーイノベーションプロジェクトにこのソリューションを活用した提案をしました。審査の締切日が過ぎたあと、交渉、アピールしてねじ込んだようです。シンガポールは国全体が株式会社のようなもので、外資の力を借りて、イノベーションを推進することを国是としていました。その推進役がEDPというわけです。
多国籍の共同開発プロジェクトチーム
提案は前向きに審査され、私がボストンから戻ったあと、すぐに最終交渉が行われました。このEDPのプロジェクトは、外資とシンガポールパワーとの共同開発プロジェクトで、EDPが開発費用の半分を負担します。そのため、審査は厳しく、シンガポールパワーとの共同開発ですので、シンガポールパワーがEDPの実行役として実質の交渉の相手となりました。成果物、IP(知的所有権)、スケジュール、プロジェクト体制、レポート、将来のビジネス展開等を明確にして説明しました。プロジェクトのスコープは、STI社が停電と電力システムの保守対応のソフトウエアソリューションを提供、シンガポールパワーが電力運営のノウハウ提供、それをプロマネするのがNECというものでした。STI社はアメリカ人とインド人が主の開発会社、シンガポールパワーはシンガポール人、そして我々は、本社が日本人、シンガポールに私とゴパルとベンカットのインド人2人という体制でした。したがい、この共同プロジェクトは、シンガポール人、インド人、アメリカ人、日本人の多国籍の人員で構成されるチームとなります。
最終交渉には、STI社の幹部(NO.2)や日本からNECの出張者も参加し、細かな契約書のチェックを行い、無事調印にこぎつけることができました。我々の役目は、プロジェクトの全体管理、特にスケジュール管理にありましたが、それは具体的には、シンガポールパワー側の電力運営を理解しつつ、STI側のソリューションを技術的に理解し、両社をうまくマネジする点にありました。国で見れば、シンガポール人チーム(シンガポールパワー)とアメリカ人?インド人チーム(STI)を日本人?インド人チーム(NEC)がコーディネートするという図式でした。
イノベーションを国是
2016年の6月、シンガポール政府(EDP)が記者会見を行い、我々のプロジェクトを含む合計6つのエネルギーイノベーションプロジェクトが発表されました。イノベーション推進を国是とするシンガポール政府の面目躍如といった感じで、EDPはもちろんのこと、シンガポールパワーの面々の喜びに溢れた姿が印象的でした。STIもようやくアジアに地歩が築けるとあって、NO.2は早速このプロジェクトの先を見越した戦略構築に活動の軸足を移していました。
私も、これで蓄電池の実証試験と電力ソリューションの共同開発プロジェクトに参画できることで出向初年の成果は上々でした。商品的には、ハードウエアを軸とした蓄電池システムとソフトウエアを軸とした電力オペレーションソリューションで、バランスが取れていました。しかし、シンガポールのエネルギー業界の中心であるシンガポールパワーグループに食い込めたことが何よりの成果でした。ここまでは順調な滑り出しでした。