映画『ラストマイル』(配給:東宝)が大人気です。ブラックフライデー直前の巨大物流倉庫の大危機がテーマ。息つく暇もなくスピーディーに展開。ハラハラドキドキ満載。エンタメ性が優れているだけでなく、この映画は「ロジスティクス」についての重要な視点を提供してくれます。
映画『ラストマイル』の舞台は、巨大物流倉庫!
東宝の映画『ラストマイル』(制作: TBSスパークル、2024年8月23日公開)が絶好調です!公開から3週目までで週末映画動員ランキング3週連続1位(興行通信社)。興行収入も30億円を突破。この時点で50億円越えも視野に入っています。
映画の舞台は日本国内の巨大物流倉庫。ストーリーは息つく暇もなくスピーディーに展開。ハラハラドキドキ満載。男女の名コンビが活躍する「バディ映画」の側面も持ち、仕掛けられた多くの伏線が回収されていく。さらに、現代の社会問題にも切り込む秀逸な作品です。
完全オリジナル版のストーリーは、物流業界最大イベント「ブラックフライデー」の前夜、大手ショッピングサイトの配送段ボールが爆発するところから展開。日本を震撼させる連続爆破事件に発展するなか、巨大物流倉庫のセンター長に就いたばかりの舟渡エレナ(満島ひかりさん)は、チームマネージャーの梨本 孔(岡田将生さん)と一緒に、未曾有の危機に立ち向かう(出所:情報サイト『映画ナタリー』など)。
主題歌は米津玄師 氏の「がらくた」
映画全体の立て付け(構成)として、この『ラストマイル』は、TBS人気ドラマ「アンナチュラル」と「MIU404」と同じ世界で物語が同時展開する「シェアード?ユニバース」(共有舞台/世界)。「シェアード?ユニバース」の好例がマーベル映画「アベンジャーズ」のMCU(マーベル?シネマティック?ユニバース)です。
主題歌は、日本を代表するシンガーソングライター米津玄師 氏の「がらくた」。同じく米津氏が提供した「アンナチュラル」の主題歌「Lemon」、「MIU404」の主題歌「感電」と、この「がらくた」の3曲によっても世界が共有されています。
監督は塚原あゆ子 氏(TBSスパークル所属プロデューサー?ディレクター)、脚本家は、エンタメ性と社会性を兼ね備えた作風で人気のある野木亜紀子 氏。TVドラマ『アンナチュラル』『MIU404』と同じ最強タッグが、本作でも再び実現。
『ラストマイル』最新予告映像(By 東宝MOVIEチャンネル)
本作『ラストマイル』からロジスティクスを学べる!
(前述のとおり)エンタメ性と社会性において優れているこの『ラストマイル』ですが、ビジネス、特に、「ロジスティクス」(物流)でも興味深い視点を提供してくれます。
ちなみに、ロジスティクス(logistics)とはもともと軍事用語の「兵站」(へいたん)という意味です。戦争時に、前線に兵士をはじめ武器や弾薬、燃料などの軍事物資、さらには食料や医薬品などの生活物資を計画的に補給すること。現在では、物流、つまり、「原材料の調達から消費者の手に届くまで」の一連の流れを一括で効率的に管理するシステムのことを指します。
経済産業省から発表された調査結果(「澳门葡京赌城_澳门网投平台-【在线*游戏】4年度 電子商取引に関する市場調査 報告書」2023年8月)によると、2022年の「全世界」のBtoC(企業対消費者)型EC(電子商取引:オンラインショッピング)の市場規模の推計値(旅行?チケット販売を除く)は713兆円(131円/ドル換算)で、2026年まで市場の成長が続く見込みです。世界のEC市場のシェアは、中国50.4%、米国18.4%、イギリス4.5%、日本3.1%、韓国2.5%の順となっており、中国と米国の2カ国で世界E C市場の7割を占めています。
撮影に使われた物流倉庫はトラスコ中山 社の物流センター「プラネット埼玉」「プラネット北関東」
映画『ラストマイル』が提供する第1の視点は「撮影場所」です。最初に、この映画を見た多くの観客が思うのは「物流倉庫の撮影はどこで行われたのか?」ということでしょう。
「映画のロケ地」は物流センター「プラネット埼玉」(埼玉県幸手(さって)市)、「プラネット北関東」(群馬県伊勢崎市)の2か所。これに関して、モノづくりの現場で必要とされるプロツール(機械工具卸売)の専門商社?トラスコ中山 社(東証プライム上場、本社: 東京都港区新橋四丁目)が同センターを提供したと発表しています。
同社は「中山機工商会」として1959年創業。「TRUSCO」とは、「TRUST(信頼)+ COMPANY(企業)=信頼を生む企業」に由来。同社の連結売上高2,681億円(2023年12月期)。従業員数[連結]3,043名(23年12月末時点)。業界最「後発」創業の同社の強みとして、在庫58万アイテムを展開し、物流センターを全国28か所に保有して商品の即納を実現。
トラスコ中山 社の英断(撮影協力)が、この映画の成功に大きく貢献していることは、映画を見ている観客には容易に理解できます。
北米/世界最大の倉庫は東京ドーム20倍「テスラ?テキサス?ギガファクトリー」
ところで、関連して、北米最大の倉庫(Warehouse)を検索してみたところ、第1位が電気自動車メーカー「テスラ?テキサス?ギガファクトリー」(Tesla Texas Gigafactory)でした。所在地は米国テキサス州オースティン、倉庫の広さ 1,000万平方フィート(929,0303平方メートル)。これは、日本の東京ドームの約20倍の広さです。広さは北米最大と同時に、世界最大だそうです。
テスラ社の同施設における最適化のレベルは驚異的だと評されています。生産フロアと組み立てラインが連携して効率を高めるために、生産工程はすべて同じフロアで実施。「工場の片側で生産に必要な材料が供給され、工場の反対側で完成車が出荷される」という仕組みになっているそうです。
「ブラックフライデー」の語源は、アメフトの伝統試合夜の「街の大混乱」?
第2の視点が「ブラックフライデー」です。本作『ラストマイル』に出てくる「ブラックフライデー」(Black Friday)は、もともと、米国の11月4週目の木曜日に行われる「感謝祭」(Thanksgiving)の翌日に行われる販売セールのこと。日本の販売セールでも最近よく使われる言葉です。語源としては、アメリカの「感謝祭」の翌日のセールの売上増で、小売店が赤字(in the red)から黒字(in the black)に転換する時期だからと一般に思われているようです。黒字/赤字は、コンピュータが普及する以前は、会計士は黒インクで収入を、赤インクで支出を記録していたことに由来。
しかし、歴史を紐解くと、「ブラックフライデー」という名称が注目されるようになったのは、1960年代にフィラデルフィア(Philadelphia、東部ペンシルベニア州)で毎年開催されていた陸軍(Army)対海軍(Navy)のフットボール?ゲームが引き起こした「物流の悪夢」(a logistical nightmare)がきっかけだったされます。この試合は毎年感謝祭の翌日に開催され、タクシードライバーや警察、一般ドライバーたちは、フィラデルフィアのインフラに人が大量に押し寄せることを嘆き、その日を「ブラック?フライデー 」と呼んだそうです。もちろん、商店主たちは、この日を1年で最も儲かる日のひとつと考えていたとのこと。
本作『ラストマイル』の物流倉庫が直面する危機は、「悪夢」という意味で、「ブラックフライデー」の語源に重なっているのです。
「ラストマイル」の意味
第3の視点が「ラストマイル」(last mile)です。タイトルの「ラストマイル」(あるいは「ラストワンマイル」)とは、あるプロセス、特に顧客が商品を購入する際の最後の段階を指します。輸送、サプライチェーン、製造業、小売業などの文脈で使われる場合、「ラスト(ワン)マイル」は輸送の最後の足として製品の配送を表現するために使われます。「1 mile」(1.6km)の距離とは直接的には関係なく、「物流の最終段階」を示唆しています。
製品の原材料?部品の調達から販売に至るまでの一連の流れを指す「サプライチェーン(供給連鎖)マネジメント」(supply chain management)において、前述のとおりラストマイルとは、ハブ(hub、物流の中心拠点)から最終目的地(例:消費者の自宅)までの荷物の輸送の最後の難しい部分を表ししています。ラストマイルの問題には、コストの最小化、透明性の確保、効率の向上、インフラの改善などが含まれます。
そのなかでも、最後の地元配送センターから最終顧客までの配送プロセスの最終部分が、最も複雑でコストと手間(特に人手)がかかるため、効率化が最も困難になるとされます。
もともと「ラストマイル」という用語は、電気通信サービスを顧客に提供するための電気通信ネットワークの最終的な部分を指して使われたようです。つまり、電気通信ネットワークのうち、物理的に顧客宅に到達する部分を意味します。
「ラストマイル」に対して「ファーストマイル」(first mile)という用語もあります。公共交通システムの文脈で、ファーストマイル/ラストマイルと言及されます。旅行者の出発地、目的地のそれぞれと「交通機関の駅」との間の距離のことで、この距離を縮めることが、交通を効率化することにつながるという意味です。
「物流/運送の2024年問題」とは?
第4の視点が「物流/運送の2024年問題」です。「物流/運送の2024年問題」とは、2024年4月からドライバーの労働時間に上限が設けられることに伴って生じる問題のことです。
オンラインショッピング(EC: 電子商取引)の急激な成長に伴う人員不足に、ドライバーの時間外労働の規制も加わり、物流/運輸業界の人員の確保がさらに難しくなっているのは周知の事実です。
さらには、労働時間に伴う労働者の収入減少、離職や人材確保困難による人員不足、人材の高齢化が懸念されています。こうした深刻な問題は、物流/運輸業界だけの問題ではなく、荷物の送り主や受け取り主である企業や私たち消費者の日常にも大きな影響も及ぼすものです。
本作『ラストマイル』はその意味で、「物流/運輸の2024年問題」を、リアルな映像によって理解することができる格好の機会を提供してくれる作品でもあるのです。
最後に、この映画を観た多くの人(筆者を含む)が、ロッカーの扉の裏に書かれた数字のメッセージの意味を知りたいと思っているのではないでしょうか。インターネット上では、ベルコンベアの(可能最大)速度、運ぶ荷物の重さの限界、(物流センター/ベルコンベアの)稼働率を意味するのではないかなどと、議論されています。
本作『ラストマイル』を未見の方も、映画を実際に見て、この「謎解き」に参加してみてください。