花札からNINTENDO SWITCHまでの135年の「楽しさ」が詰まった「ニンテンドーミュージアム」がオープン。アメリカの主要企業博物館とともに、企業ミュージアムの目的/役割をまとめました。
認知度6割以上の「カップヌードルミュージアム横浜」「鉄道博物館」
「第95回:企業ミュージアムに関する意識について」(2022年6月、サンプル数: 330)というリサーチがあります。「トライベック?ブランド戦略研究所」(東京都港区赤坂)が実施したもので、要点は次のとおりです。
(1) 「カップヌードルミュージアム横浜」、「鉄道博物館」(さいたま市)の認知度が高く、6割以上が「知っている(詳しく+少し+名前だけ)」と回答。
(2) 「カップヌードルミュージアム横浜」、「鉄道博物館」、「NHK放送博物館」(東京都港区愛宕)は1~2割の人が「行ったことがある」と回答。また「行ったことはないが行ってみたい」という人は「カップヌードルミュージアム横浜」や「グリコピア?イースト」(江崎グリコ、埼玉県北本市)がおよそ4割と高かった。
(3) 来館経験?意向者が多かった「カップヌードルミュージアム横浜」や「鉄道博物館」、「グリコピア?イースト」は「商品?サービスの展示コーナーが面白そうだから」「体験コーナーが面白そうだから」が高かった。
(4) 来館目的は、いずれのミュージアムも「家族?友人とのレジャー」が多い。また「学校の宿題?課題のヒントを得るため」という人も一定数いた。
任天堂のゲーム作りの想いが詰まった「ニンテンドーミュージアム」
さて、2024年10月2日、新たに注目を集める企業ミュージアムとして「ニンテンドーミュージアム」がオープンしました。「ファミコン」(「ファミリーコンピュータ」)、ニンテンドーDS、Wii、Nintendo Switch。そして『スーパーマリオ』『ドンキーコング』『ゼルダの伝説』など、数多くのヒットシリーズを世界に送り出してきたゲームメーカー「任天堂」。同社のものづくり、ゲーム作りに対する想いが詰まった企業ミュージアムです。任天堂にとって初のミュージアム施設です。
所在地は京都府宇治市。かつてトランプなどを生産していた宇治小倉工場(任天堂の工場創業地)をリノベーションした2階建て全3棟の施設。工場の名残を感じさせる外観と、建物内には体験型ゲームエリアや展示エリア、カフェにショップなどの多彩なスペースを設置。
宇治市には、世界文化遺産である宇治上神社や平等院(鳳凰堂)、高級茶の代名詞である宇治茶や、国の重要文化的景観である宇治川など、歴史や文化、自然といった、豊富な名所/産物があります。
「看板も控えめにしてて京都をわかってはるわあ」
ニンテンドーミュージアムの看板は、宇治市「まちづくり景観条例」にしたがい、グレーの控えめのカラーで周辺の景観を損なわないように配慮されています。ゲーム情報サイト「ファミ通.com」の記事(2024年9月25日)のタイトルには、京都出身の取材記者による「ニンテンドーミュージアムはん、看板も控えめにしてて京都をわかってはるわあ」という感想が採用されています。
この施設はテーマパークではなく「ミュージアム」、つまり博物館です。コンピューターゲーム機以前のアナログゲームや玩具、「ファミリーコンピュータ」から「Nintendo Switch」までの歴代ゲーム機とゲームソフトが展示され、「体を動かすあそび」などテーマ別の変遷も紹介。1889年に「花札」の製造から始まった135年に及ぶ歴史。その道程のなかで任天堂がどういった「楽しさ」を生み出してきたのかを情報発信しています。「任天堂」の社名は「運を天に任す」という花札ゲームに関係する言葉に由来するとされています。
スーパー マリオパーティ ジャンボリー CM 体感 パタパタタクシー篇(Nintendo 公式チャンネル)
豊富な選択肢からオリジナルバーガーをオーダーできるカフェもあります。サワラの西京焼き、シャキシャキのレンコンのきんぴら、しば漬けのタルタルソースが入った「西京焼きバーガー」(単品¥1,350)も堪能できます。花札を製作できるワークショップや花札の体験コーナーも設置。限定グッズを購入できるミュージアムショップ『BONUS STAGE』では、マグカップや文房具など限定グッズ、歴代の商品をモチーフにした帽子にTシャツ、ファミコンなどのコントローラーの巨大クッションが購入できます。
『マリオ』『ゼルダ』『ドンキーコング』シリーズの生みの親である、任天堂代表取締役フェロー、宮本茂氏がインタビューでニンテンドーミュージアムについて次のように述べています(「世界三大三代川」氏執筆『ファミ通.com』記事(2024年 9月25日))。
「(親子)三世代については、自由に見てもらえればいいです。誰に見てもらうということもなく、自分に思い出のあるものを見ていだだけたらいいですし、どちらかというと僕らがそこで面白い発見ができたらもっと良いかなと思います。
???そういったいろいろな体験をしてもらって、グローバルにいろんな人たちに任天堂が面白いことをインターフェースも含めてわかりやすく、使いやすく伝えることが上手な会社なんだとわかってもらえればいいなと思って作っています。」
「倉庫で眠らせておくのがもったいないので、社員も含めて皆さんの前に出したのが目的で、あまり中長期的な戦略とは関係がないんですね。
そして三世代いろいろな人たちがミュージアムに来て、『任天堂って普段言われている競合メーカーとか、新しい先端の技術とか、全然関係ないところにある会社なんだな』って思ってもらうのが一番大事なことだと思っています。」
ニンテンドーミュージアムの基本情報
2024年10月2日オープン。事前予約必須(現在は抽選制)。場所は京都府宇治市小倉町神楽田56。アクセスは近鉄京都線「京都駅~小倉駅(20分)」小倉駅東口徒歩5分、またはJR奈良線「京都~JR小倉駅(30分)」JR小倉駅北出口徒歩8分。
営業時間は10:00~18:00(最終入場は16:30)。休館は火曜(祝日の場合は翌水曜)、年末年始(12月30日~1月3日)。入場料(税込)は大人¥3,300、中高生?2,200、小学生¥1,100、未就学児は無料。詳細は公式サイトを確認。https://museum.nintendo.com
米国の「コカ?コーラ博物館」「リーバイ?ストラウス?アーカイブ」
ニンテンドーミュージアムのことを考えていたとき、企業PRの先進国といえば米国企業のことが思い浮かびました。いくつかの企業博物館(corporate museum)を検索してみたので紹介しておきましょう。
第1が「ヘンリーフォード博物館」(The Henry Ford Museum、フォード?モーター社)です。所在地は、ミシガン州ディアボーン。テーマは自動車の歴史、フォード?モーター社の革新、工業化。第2がジョージア州アトランタに所在する「コカ?コーラ博物館」(World of Coca-Cola、ワールド?オブ?コカ?コーラ)です。 コカ?コーラの歴史、広告、マーケティング戦略を紹介し、世界中のさまざまなコカ?コーラ製品を試飲できます。
第3がオートバイの「ハーレーダビッドソン博物館」(Harley-Davidson Museum)です。ウィスコンシン州ミルウォーキーに所在。ハーレーダビッドソンのバイクの歴史がテーマ。第4が「ハーシー?ストーリー博物館」(The Hershey Story Museum、ハーシー社)。場所はペンシルベニア州ハーシー。テーマはハーシーチョコレートの歴史と町および経済への影響、地域社会への貢献。
これら以外にも、カリフォルニア州サンタクララの「インテル博物館」(Intel Museum半導体)。ワシントン州シアトルの「ボーイング飛行博物館」(Boeing’s Museum of Flight航空機)。ニュージャージー州ニューブランズウィックの「ジョンソン?エンド?ジョンソン博物館」(Johnson & Johnson Museum、ヘルスケア/医療機器)。カリフォルニア州サンフランシスコの「リーバイ?ストラウス?アーカイブ」(Levi Strauss & Co. Archives、ジーンズ)などがあります。
ブランドの遺産、広告効果、企業の社会的な責任(CSR)
アメリカ的な視点から、企業が自社のミュージアム(博物館)を運営する(戦略的な)目的を整理しておきましょう。
第1がブランドの遺産とストーリーテリング(物語)を保存することです。企業ミュージアムを通して、その歴史、マイルストーン(画期的な出来事)、業績を保存し、一般に情報公開することで、ブランドの歩みや価値、社会への貢献を永続的に伝える遺産を築くことができます。企業の起源や重要な瞬間を物語ることで、ブランドと消費者との間に感情的なつながりが強化され、信頼やブランドへのロイヤルティ(忠誠心)を高める効果もあります。
第2がマーケティングと広報の役割です。企業博物館は、業界における革新者やリーダーとしての企業の評判やイメージを強化するマーケティングツールとして機能します。来館者が企業の物語に触れることで、よりポジティブな印象を持ちます。また、企業ミュージアムは観光客や学生、ブランドのファンを引きつけ、結果的にメディアの注目や企業への関心を生み出します。
第3に革新的な技術や進歩プロセスの教育への貢献です。多くの企業博物館は製品の技術的進歩や製造プロセスを紹介し、訪問者がその企業の独自の貢献や専門知識を理解できるように配慮されています。また企業博物館は、学校や大学と連携して、業界関連の知識を提供する教育プログラムやワークショップを開催し、教育面での貢献を果たしています。
第4が「企業の社会的責任」(CSR: Corporate Social Responsibility)と地域との関わりです。企業博物館は、文化、教育、観光に貢献することで、企業の社会的責任を果たしています。地域社会/経済に付加価値をもたらす文化/観光施設でもあります。
採用活動へのプラス効果、アーカイブ(記録保存)と歴史研究
第5が社員の士気向上と採用活動へのプラスの影響です。企業博物館は、企業の業績や文化、使命をたたえることで、社員に誇りを持たせ、自分の仕事が企業の大きな歴史にどのように貢献しているかを実感することができます。同時にその企業の成果や革新、働きやすさをアピールすることで、優秀な人材を引きつけるツールにもなります。
第6として、投資家との関係強化にもつがなります。企業博物館は、IR(Investor Relations)としての機能も有しています。IRとは、企業が株主や投資家に対し、財務状況など投資の判断に必要な情報を提供していく活動全般を指します。
第7として、アーカイブ(記録保存)と歴史研究の場としての機能も持ち合わせています。企業博物館は、企業の過去に関連する重要な文書やプロトタイプ(製品の原型)、アーティファクト(人工物/過去の商品/製品)を保管するアーカイブセンターとしての役割も担っています。その多くは、研究者や歴史家と協力し、業界の動向や経済/ビジネス史を記録することで、ビジネス研究にも貢献しています。
国内外を旅行する場合、定番の観光スポットにくわえ、こうした企業ミュージアムにまで足を伸ばしてみると、知識/話題の引き出しが増えるとともに、新たな発見やビジネスのヒントに出会えるのではないでしょうか。