マーケティング最前線!

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トンネルウォーク(Tunnel Walk)。米バスケNBAと著名ブランドとのコラボ戦略。 Beats By Dre、Nike、Tiffany

2024.12.23

Beats By Dre(Beats By Dr. Dre)、Nike、Tiffany。著名ファッションブランドと米バスケNBAとのコラボ戦略『トンネルウォーク』(Tunnel Walk)を紹介します。

NBAは若いファン層の気持ちをつかんでいる!

世界的に著名な世論調査機関、米ギャラップ社(Gallup)の調査(2023年12月実施)によると、米国人の好きなスポーツNo.1は「(アメリカン)フットボール」で、成人の41%が支持。「野球」と「バスケットボール」は、それぞれ10%と9%で実質同率2位。アメリカンフットボールは、1972年に野球を抜いて以来、同社の世論調査で人気トップの地位を維持し続けています。

また、ある統計によると、米国バスケNBAのファンの平均年齢は37 歳。野球MLBファン(チケット購入者)の年齢中央値は43歳。アメフトNFLのファンの平均年齢は51歳。アメリカの上記3大プロスポーツの中で、若いファン層をつかんでいるのがNBAです(なお、アイスホッケーNHLのファンの平均年齢は49歳)。

2023年の米国(北米)プロリーグの総収入は次のとおり。アメフトNFL187億ドル(2.6兆円)、バスケNBA109億ドル(1.5兆円)、野球MLB109億ドル(1.5兆円)、アイスホッケー68億ドル(9,500億円)。

バスケの長所は、簡単かつ安価に始められること!

人気とともに総収入のトップを維持しているのがNFLですが、若いファン層をつかんでいるという意味では、NBAが注目されます。最近、そのNBAは、米国内だけでなく、世界的に人気が拡大しています。第1の要因は、世界中の幅広い人々がアクセスしやすいという優位性。バスケットボールは比較的簡単かつ安価にセットアップ(準備/配置)してプレーすることが可能です。

第2は、グローバルなマーケティング戦略。NBAは国際的な人気拡大を積極的に追求し、多様な国で試合やイベントを開催し、海外でのマーケティングやパートナーシップに投資しています。

第3として、マイケル?ジョーダン(Michael Jordan)、コービー?ブライアント(Kobe Bryant)、レブロン?ジェームズ(LeBron James)、ステフィン?カリー(Stephen Curry)、ヤニス?アデトクンボ(Giannis Antetokounmpo)、ニコラ?ヨキッチ(Nikola Joki?)といったNBAの各スターの圧倒的な魅力も、リーグの国際的な人気に貢献しています。

第4が、若者に人気のストリートカルチャーやストリートファッションとの密接な関係性です。バスケットボールシューズ、ストリートウェアなどのファッションや音楽など、人気プレイヤーとのコラボを通じて、さまざまなストリートカルチャーを発展させ、スポーツミックスファッションをけん引しています。

NBAプレイヤーはハイスピード、運動能力、高いスキルをアピール!

第5の要因が、ゲーム自体の特性です。バスケットボールのテンポの速さと得点力の高さは、多様な文化的背景を持つ視聴者にアピールしています。NBAでは、ハイスピード、運動能力、高いスキルをアピールするようなプレーが強調されます。こうした特性は、「タイパ」(タイムパフォーマンス)重視の若い観客の注目を集めるのに適しています。また、ダンク、スリーポイント、ファストブレイク(速攻)などがもたらす(視覚的)興奮は、若年層にアピールする十分なエンターテインメント性も備えています。

ここで、NBAについて簡単に確認しておきましょう。「NBA」(エヌ?ビー?エー)とは「National Basketball Association」の略。米国とカナダの30チームで構成される北米の「プロバスケットボールリーグ」(1946年創設)。東西二つのカンファレンス(意味:リーグ)に分かれ、各カンファレンスはそれぞれ3つのディビジョン(地区)があります。「2カンファレンス×3ディビジョン(地区)×5チーム」で合計30チーム。

毎年、10月から翌年4月にかけてレギュラーシーズンの試合を実施。その後、東西のカンファレンスで各ディビジョンの1位チーム(3チーム)を含めた上位8チームによるプレイオフを行い、カンファレンスの優勝チームを決める。東西両カンファレンスの優勝チーム同士による決勝戦は「NBAファイナル」とよばれ、6月に実施(4勝先勝、最大7戦)。2024年6月のNBAファイナルシリーズは、ボストン?セルティックスがダラス?マーベリックスと対戦し、16年ぶりの優勝を飾りました。

NBAやカリスマ的なプレイヤーの世界的な人気を目の当たりにして、ブランドや企業が何もしないで傍観しているはずがありません。そこに積極的に関与しているのが、ファッション産業です。その関与の手段の一つが「NBAトンネルウォーク」です。

NBAの「トンネルウォーク」はファッションショーの「ランウェイ」

NBAの「トンネルウォーク」(Tunnel Walks)とは、選手やコーチ、時には有名人までもが、試合開始直前にロッカールームからバスケットボールコートまで指定された「トンネル」(通路)を、ファッションショーの「ランウェイ」(花道)のように歩くことを指します。このトンネルウォークは、エンターテインメント、スポーツマンシップ(アスリートが備えている自信、健全な精神、明朗/快活感)、ファッションのユニークな融合を生み出し、選手自身の個性をもアピールし、ファンの興奮を高める場を提供しています。

米NBA界で「キング」(King)の愛称を持つ、レブロン?ジェームズ(LeBron James)と一組のヘッドフォンが、NBAとファッションの関係を「今日のもの」に変えたといわれています。時は2008年。人気ラッパー/ミュージシャンの「ドクター?ドレー」(Dr. Dre)はオリンピック北京大会でレブロン?ジェームズをはじめとするアメリカ男子バスケットボールチームのメンバーに「Beatsヘッドフォン」を贈りました。

(後ほど説明しますが)このとき、新興テックブランドの「ビーツ?エレクトロニクス」社(2006年設立)は、わずか2ヶ月前に最初のヘッドホンを「ベストバイ」(Best Buy、アメリカ最大の家電量販店)に売り込み、やっとスタートしたばかりでした。同社の事業領域は、当初、音楽業界専用という位置づけでした。しかし、オリンピック参加のために、レブロン?ジェームズやNBAスタープレイヤーがヘッドフォンを装着して飛行機から中国に降り立つと、「ビーツ?バイ?ドクター?ドレー」は一夜にして、最もクールでファッショナブルなヘッドフォンとして世界的な注目を集めたのでした。

Beats by Dre | NBA and Beats

「Beata by Dr. Dre」と「キング」レブロン?ジェームズ

NBAのトンネルウォークを活用して成功した製品プロモーションの事例を紹介しましょう。

第1が、(前述の)「Beats by Dr. Dre」(ビーツ?バイ?ドクター?ドレー)の「The Game Starts Here」キャンペーン(2018年10月)です。NBAとBeats by Dr. Dreのコラボレーションです。このキャンペーンでは、NBAのトンネルウォークを中心テーマとし、選手たちがBeatsヘッドフォンを装着してウォークする様子を情報発信。参加選手としては、レブロン?ジェームズ(LeBron James)、ジェームズ?ハーデン(James Harden)、ドレイモンド?グリーン(Draymond Green)、ジェイソン?テイタム(Jayson Tatum)。

このキャンペーンから、NBAとBeatsの重要なパートナーシップが始まり、その後BeatsがNBAの公式ヘッドフォン、ワイヤレススピーカー、オーディオパートナーとして位置づけられました。

キャンペーン「Game Starts Here」(「試合はここから始まる」)は、選手の試合前のルーティン、特に音楽がゲームの準備においていかに重要かを強調。選手たちがアリーナに入場する際のトンネルウォークでは、彼らの個性的なスタイルとファッションが注目され、文化に連動したファッションの瞬間として強調されました。そうしたなかで、前述のとおり、トンネルウォークはNBA選手がファッションを通じて自己表現をする場となりました。また、Beatsはこのコンセプトを活用して、音楽がアスリートの精神的準備をどのようにサポートしているか、という強力なメッセージを発信したのです。

ビーツの「b」はヘッドフォンも表現している!

「ビーツ?エレクトロニクス」(Beats Electronics LLC)もしくは「Beats by Dr. Dre」は、アメリカのオーディオ機器のブランドです。Appleの完全子会社です。本社はカリフォルニア州サンタ?モニカ。会社を設立したのは音楽プロデューサー/ラッパーのドクター?ドレーと、インタースコープ?レコードの創業者であるジミー?アイオヴィン(Jimmy Iovine)。

ビーツ製品は、ヘッドフォンやスピーカーのブランドになっており、ブランド名は『Beats by Dr. Dre』(ビーツ?バイ?ドクター?ドレー)。特にヘッドフォンは世界的に有名であり、アスリートやミュージシャンなどを中心に愛用者は数多く存在します。音質としては低音を強調するオーディオ機器です。

ビーツ?エレクトロニクスのロゴと言えば、ブランドネームの頭文字である「b」。これは、ヘッドホンも表しています。つまり、ロゴの赤い部分は、白いヘッドホンをつけた人の頭を横から見ていることになるそうです(出所:ファッション情報サイト「フロントロウ」編集部2019年10月4日記事)。

「Dr. Dre」(ドクター?ドレー) のニックネームの由来に触れておきましょう。彼の名前「アンドレ」からの愛称(本名はアンドレ?ロメル?ヤング(Andre Romelle Young))と、ヒップホップの先輩DJ(フロアの雰囲気に合った音楽をかける役割)である「Dr. J」の名前を組み合わせています。「Dr. J」は、1970年代に活躍した、バスケットボールの伝説的プレイヤー、ジュリアス?”Dr. J”?アービング(Julius “Dr. J” Erving)のこと。並外れた跳躍力から繰り出されるダンクシュートは「芸術品」と評価され、「Dr. J」(ドクター?ジェイ)の愛称で人気を集めたプレイヤーであり、DJ/ラッパーとしても活躍。

この名前「Dr. Dre」は、ヒップホップのプロデュースやDJの分野で自分がエキスパートであることをアピールしています。「Dr. Dre」というニックネームは、彼がヒップホップ界でプロデューサーやラッパーとして名声を得るにつれて、クールな(かっこいい)「ブランド」に成長していきました。

「Beats by Dre」と「Beats by Dr. Dre」は、どちらも同じブランド「Beats」を指します。「Beats by Dr. Dre」はブランドの初期の正式な名称で、ドクター?ドレーの関与を強調することで、音楽業界のレジェンドが手掛けた高品質なサウンドであることをアピール。「Beats by Dre」は、時間が経つにつれて、より一般化/簡略化されたもの。短い方がマーケティングや認知に適しており、「Dre」だけでもドクター?ドレーの影響力を十分に示すことができます。

現在では「Beats by Dre」の方が主に使用されています。さらに、Apple(2014年にBeatsを買収)は、現在「Beats」のみの表記を製品に使うことが多く、ブランドのアイデンティティ/名称がさらにシンプルになっています。

NikeジャージやTiffanyスニーカーとのコラボ

ビーツ?エレクトロニクスにくわえて、NikeやTiffanyの事例もあります。Nikeは「NBA Earned Edition」ジャージを発売。同社は、NBAのトンネルウォークを活用して、NBAの一部チームの「アーンド?エディション」ジャージ(ユニフォーム)を発表しました(2021年3月)。

「Earned Edition」は、前シーズンにプレイオフに進出した16チームのみに与えられるユニフォーム。「Earned」(獲得した、手に入れた)という英語は、チームがプレーオフ進出という成果を達成するために努力し、その対価として「特別なユニフォーム」を着用する権利を「獲得した」ことを強調。このプロジェクトでは、新しいジャージのデザインが話題を呼び、試合前の入場時の期待感/熱気を効果的に演出/利用したと評価されています。

高級宝飾品ブランド「ティファニー」と「キング」(King)の称号を持つレブロン?ジェームズ(LAレイカーズ)とのコラボレーションもあります。2023年1月末、米国ニューヨークの「マディソン?スクエア?ガーデン」に姿を現したレブロン?ジェームズは、ナイキと(Nike)とティファニー(Tiffany)のコラボ?スニーカーを履いて自信に満ちた優雅なウォークを披露したのです。ティファニーにとっては、若者世代の取り込みを企図した、ストリートファッション/スニーカー分野への初の進出ということで大きく注目されました。

アリーナやコートの広さに伴う視認性

このように、NBAが、NFLやMLBに比べ、ファッションとの間により高い親和性を備えている要因がいくつかあります。

第1が「NBA選手へのアクセスの容易さ」です。言い換えれば、アリーナやバスケットボールコートの広さに伴う視認性と認知度の高さです。NFLやMLBに比べて、コートとファンの物理的な距離が近いのがNBAの特徴です。その結果、NBA選手は、NFL/MLB選手よりも簡単に認識されます。試合中、選手の顔や身体、そして個人のスタイルが常にコート上で見えることにより、ファンはファッション面での直接的な影響を受けやすいといえます。

第2が「スリムで高身長な体型」です。NBA選手は、一般的にNFL/MLB選手と比べて、スリムで身長が高く、よりバランスの取れた体型を持っています。オーバーサイズのシルエットに焦点を当てるストリートウェアは、NBA選手のような高身長でスリムな体型が自然と似合います。そうしたモデル体型は、写真でも「映え」やすくソーシャルメディア時代にマッチしています。

ちなみに、2024年時点でのNBA、MLB、NFLのプロ選手の平均身長は以下のとおりです。NBAが約199cm、NFLが約185cm~193cm、MLBが約187cm。さらに、NLBプレイヤーの大きな足は、ストリートファッションの必須アイテムであるバスケットボールシューズやスニーカーを、カッコよく履きこなす演出にも適しています。

もちろん、一般論でいえば、現在、スリムで長身の「限定的な体型」を「美の理想」として助長することに対して世界的に様々な批判がなされており、ファッション業界全体でもより多様な体型を受け入れる流れが進んでいるのは周知の事実です。

NBA選手が持つ「スワガー」

第3が「自信とスワガー(独特の存在感)」です。身体的な要素に加えて、NBA選手は自信と存在感を備えています。これはストリートファッションを着こなすうえでの重要な要素です。彼らがコートで見せる「スワガー」(独特の雰囲気)や前向きな態度は、彼らのスタイルにも反映され、最も前衛的で大胆なファッションでさえも自然に着こなす力を与えます。「自信」は、どんな服でも「クール」に見せるための重要な要素なのです。

NBA選手が持つ「スワガー」(swagger)とは、コート内外での自信に満ちたスタイリッシュな態度を指します。「スワガーがある」とは、選手がカリスマ性や大胆さ、自己確信にあふれていることを意味し、それがパフォーマンスや個性的なスタイルにも表れ、それを目撃/体験するファンに多大な影響を及ぼしています。

第4が「より自由な個性の表現を後押しするNBAカルチャー」です。NBAの文化は、NFL/MLBに比べて個人の自己表現を促進しています。その結果、NBAの楽しみ方として、ゲーム、選手のパフォーマンスだけでなく、ファッションも「NBA体験」の一部としてみなす文化が形成されています。他方、NFL/MLBのドレスコードは一般的にもう少し厳格で伝統的であり、これらのスポーツはNBAほどファッションと一体化しているとはいえません。

バスケとストリートウェアの文化的結びつき

第5が「バスケットボールとストリートウェアとの文化的結びつき」です。屋外のコートを使用し、簡略化されたルールでプレーされる「ストリートバスケ」が存在するとおり、バスケットボールは「街中」、ストリートと密接に結び付いています。ヒップホップ、ストリートウェア、バスケットボールは、ストリートカルチャーから生まれ、それを形作っている重要な要素なのです。

これら複数の要因が組み合わさることで、NBA選手は、NFL/MLB選手に比べて、高級ブランドやストリートファッションをうまく着こなし、「クール」なスタイルアイコンとして認識される上で大きな優位性を持っているのです。

さて、2024年10月22日、NBAの24~25年シーズンが開幕。レブロン?ジェームズ選手や八村塁選手の所属するロサンゼルス?レイカーズは本拠地でミネソタ?ティンバーウルブズと戦い、16年以来8年ぶりの開幕戦を勝利。この試合で、エースのレブロン?ジェームズ選手は、自分の息子、20歳のブロニー(Bronny James)選手とNBA公式戦での史上初の親子共演を果たしました。父子共演に関してレブロンは「これは神からもらった最高の贈り物のひとつだ」(’It’s one of the greatest gifts I’ve ever got from the man above’)と述べました。今後、ジェームズ父子の「トンネルウォーク」共演の機会も増えることでしょう。

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